闇色のシンデレラ
SIDE 大希



ザワザワザワッ!



目の前で繰り広げられる情熱的な抱擁シーンに、部屋の温度が一気に上がった。


当たり前や。厳粛(げんしゅく)な空気の中、荒瀬志勇が壱華を呼び出して何をするんかと思ったら、ハグやと?


なんやこの状況。これ、ツッコミ入れてええんか?


やけどおふたりさん絵になりすぎて、この俺が、リアクションできひんかったやんか。




周りをちょいと見渡せば、あの荒瀬の男どもが、開いた口が塞がらんことになってるし。


一部じゃ、ええ歳したおっちゃんが顔を赤らめてるし。



横を見ればあの赤星がぽっかり口を開けてアホ面。


……え、嘘やろ。お前そんな表情できたんか。





「志勇」




騒然とする荒瀬組本家。


ざわついてうるさいはずやけど、悠然とした渋い声がその場を鎮めた。


発言したのは、上座に石像のように座る組長、荒瀬冬磨。



息子の名前を呼んだだけっちゅうに、野郎どもは黙り込み息子は壱華を腕の中から開放した。


なんとまあ、効果絶大。これはまた、恐ろしいおやっさんやな。




とりあえず、ええもん見してもらったわ、と俺は座り直した。


ところがや。



荒瀬志勇は元の場所に戻って腰を落ち着けたと思うと───


壱華の手をグイッと引き、あぐらをかいたその上に、ごく自然に座らせよった。
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