闇色のシンデレラ
だん、と畳を蹴って立ち上がる者がいれば、望月に殴りかかろうと手を伸ばす者もいる。


……やめて、あの日を思い出すから。まだ引きずってる悪夢を呼び起こそうとしないで。


わたしはギュウッと目を瞑った。






ところが、ひときわ大きな物音がしたかと思うと、次に目を開けたときには広間は静まり返っていた。


目の前には、司水さんに馬乗りにされている望月が。




「勝手に暴走をしないでください。迷惑です」

「あーあ、ここからが面白いのにつれんなぁ」

「挑発の天才ですね。愉しいですか?」

「せやな、団結力のある組ほど挑発に乗りやすい」



司水さんがそっと手を放して解放すると、望月はゆっくりと起き上がり、頭を左右に振って首を鳴らした。


……暴力沙汰にならなくてよかった。


だけど脳裏には悪夢の残像がちらついて、手が無意識に震えていた。




「壱華、どこ見てんだ?」



自分の手元を見ていたら、その上に重ねられた綺麗な指先。


声が聞こえて顔を上げると、鼻が当たるんじゃないかって至近距離に志勇の顔が。


おかげで考えてたこと全部がぶっ飛んだ。



「不安なときは、俺だけ見とけ。
前にも同じようなこと言ったよな?」



志勇、異変に勘づいて安心させようとしてくれたんだ。


ありがたい、だけど。



「……壱華?」

「……もう、近すぎ!」



この距離感はどう考えてもおかしいでしょ。


顔に熱が集中してゆでタコになる!



「ククッ……」



志勇は真っ赤になって拒むわたしを観察して、嬉しそうに喉を鳴らした。


あ、この独特の笑い方、好きだなあ。
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