闇色のシンデレラ
「お前だけだぞ?俺にこんな想いを抱かせた女は」



手を伸ばして、壱華のなめらかな頬を指先で遊ぶ。


「……そっか、嬉しい」


壱華はうっとりと目を伏せて、俺の手を、腕を、確かめるように触れる。



「途中で警察が壱華を渡せと勧告してきた。
俺の意向に反対する組の輩も現れた。
それでも俺は……壱華を手放す気は毛頭なかった」



長いまつ毛を震わせて、光の加減でまるでブラックダイヤのような輝きを放つ瞳。


吸い込まれそうな瞳に加えて、壱華の色香が漂っているものだから、早くも狼と化してしまいそうだと内心苦笑した。




「極山がお前を襲った時もそうだ。
初めて誰かを失うことを恐ろしいと思った。こいつが死んだら俺も死ぬと確信した。
だからお前に墨なんか彫らせて、逃げられねえように束縛して……」

「刺青?志勇が綺麗って褒めてくれるから好きよ?」

「っ、なのにお前はそうやって、束縛も嫉妬も嬉しそうに受け止めて。
かと思えば急に離れたいなんて言い出して、俺の気持ちを試したりな。
残念ながらバレバレなんだよ」

「怖かったの。想えば想うほど辛くなって、幸せで。
本当に、志勇のことを大好きになっていくから」



壱華の吐息が、声が、触れる指先が、俺の五感を刺激する。


いつの間に、そんな素直に気持ちを伝えられるようになった?


いつの間に、そんな色っぽい表情覚えた?




「お前、俺の限界点突破させようとすんじゃねえよ」



教えたのは俺なのに、1ヵ月引き裂かれた期間で、反応ひとつひとつが新鮮味を増している気がする。


まったく、こんなんじゃ鼓動がうるさくて、おちおち触ることもできねえじゃねえか。
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