闇色のシンデレラ
抱きしめると動悸が収まったから、壱華を胸の中から解放してやる。


この際だから、壱華に話そうと思うことがある。




「俺の身近に、シンデレラストーリーが成立しててな」



凶悪な獅子が見初めたのは、身寄りのないカタギの女。



「それが、親父とおふくろだ」



以来20年近くずっと、お互い以外の異性は眼中にないと言っても過言ではないほど相思相愛。



「あれだけ毎日見せつけられちゃ、俺も親父とおふくろみてえにって、心のどっかで思ってた」



ガキの頃は、将来ああいう風に好き合える人と出会えれば幸せだろうとなんとなく考えていた。




「うん、素敵だよね。お母さんと組長さん」

「……ああ。んで、そう思ってたのも忘れかけた頃に、壱華が『シンデレラに憧れてる』なんて真面目な顔して言うからマジでビビった」

「んん?ちょっと馬鹿にしてる?
それに女の子は誰でもシンデレラに憧れるものだよ」

「違う、逆だ。こいつだと思ったんだよ。
けど、やっと見つけたと思ったら、ガラスの靴も残さねえで消えて、お前を取り返すの苦労したんだぞ?」

「ふふっ」


「笑い事じゃねえ。だから俺がこうなったのかお前のせいだ」

「じゃあ、今日からはぐっすり眠れるね。わたしも久々にゆっくり眠れそう」

「あ?今日は眠らせねえよ?」





すっかり表情の明るくなった壱華の細い腰を引き寄せ、指先で顎を持ち上げる。


壱華はその意味を理解すると、耳まで赤くして目を丸くした。
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