闇色のシンデレラ
SIDE 壱華



いつもと違う荒瀬さんの雰囲気に飲まれそうになる。


今までちゃんと見ることができなかった荒瀬さんの目は、強い意志と揺るぎない自信に満ちていた。



「壱華……」



まっすぐな眼差しに心が揺らぐ。



「……何も、分からない」



そこまで知りたいというのなら、話してみようか。


これ以上失う物なんてないんだから、ここで吐き出したって構わない。




「気がついたら、わたしには何も無かった」



始まりは、叔父さんが亡くなってすぐのこと。


叔父さんにもらった、お気に入りのクマのぬいぐるみを盗られたことから始まった。



「全部、奪われて、全部、持って行かれて、わたしの味方は誰もいなくて、いつも独りだった」



ふたりの盗るという行為はエスカレートしていき、標的はわたしの服や物に変わり、そして人間へと変わった。


小学校のとき、仲の良かった友達。


あの子たちは実莉と遊ぶようになってから、何か吹き込まれたのだろう。


わたしと一切遊ばなくなり、むしろいじめてくるようになった。


中学校のとき、告白されて初めて付き合った先輩も、結局は美花に乗り換えたっけ。


あの時はひどい振られ方したなぁ。



「いじめ、なんて言葉じゃ生ぬるい。
酷いこと、たくさんされた」



そしてふたりについた人間は、容赦なくわたしに襲いかかってきた。


クラスで無視なんか当たり前。


朝、教室についたら机と椅子がなかったり、落書きされてたり、給食に虫や洗剤を混ぜられたこともあった。


問題が起きればみんなわたしのせいにして、先生はわたしの声には耳を塞いで『なんで姉妹の中でお前だけ出来が悪いんだ』と決めつけて説教をする。


学校でリンチされたときも、先生も生徒も誰も助けてくれなかったな。


おかげで今でも消えない傷が、体のあちこちに残っている。


ああ、わたしの人生って、本当、悲惨。
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