闇色のシンデレラ
王子様なんかいない。奇跡なんて起こらない。


わたしは誰にも必要とされてない。



「壱華、下向くな」



じゃあ、なぜこの人に必要とされているのかっていうと、それは謎だらけなわけで。


腰に回す手に力を込め、はっきりと声を発した帝王。


立ち止まって見上げると、その先に彼の整いすぎた顔がある。



「俺だけ見とけ」

「……」

「いいな?」

「……うん」



身長差こんなにあったんだ。


20cmくらい差があるかな、なんて考えつつ、ぼんやりと彼の顔を見つめていた。



「颯馬……」

「はい」

「行け」



すると彼は騒ぎ立てる女たちを指差し、なぜか颯馬さんに命令した。



「え?」



なんで俺が?って顔をする颯馬さん。



「あ?」



さっさと行けよって顔をしかめる帝王。



「……畏まりました」



颯馬さんは文句を言いたげだったけど、しぶしぶ、面倒くさそうに進行方法を逆にする。


すると志勇は、彼を置いて歩き出した。



「晩飯の材料買いに行くぞ」

「颯馬さんは?」

「女は颯馬に任せた方が早い。それに(りき)がついてるから心配すんな」



……力さんって誰だろう。


肩越しに颯馬さんの方向を見ると、スーツを着た男性のうち、背の高い短髪の人が、颯馬さんの後を追って行った。
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