独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
そうだ。そもそも私は女性として意識されていない。ひとつのベッドで眠ったとしても、なにも起こらないはずだ。
それに今は夏季休暇中で、明日も仕事はお休み。急いで帰らなければならない理由がないし、なにより樹先生ともっと一緒にいたい。
「と、泊まります。樹先生とここに……」
「うん。うれしいよ」
樹先生がふわりと微笑み、私の顎に手を触れる。
なにもしないと言われたそばからのスキンシップに驚き目を見張ると、端整な顔が徐々に近づいてきた。
もしかして、これは……。
ファーストキスの予感に胸が高鳴る。
ゆっくり瞼を閉じるとすぐに、チュッという短い音とともに額に温かい感触が伝わった。
えっ? なんで?
想像していない箇所へのキスに戸惑いながら瞼を開ける。
「なに食べたい?」
「……」
樹先生が朗らかに微笑む様子を見たら、自分だけが唇を重ね合わせるつもりでいたことに気づき、無性に恥ずかしくなってしまった。
「どうしたの?」
「い、いいえ。なんでもないです」
赤く火照る頬を隠すために、急いでメニューを覗き込んだ。
樹先生になら、なにをされてもかまわないのに……。
一方通行の思いが切ない。