独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「は、はい!」
信頼されていることを実感して胸が熱くなり、カードキーをギュッと握った。
「あの、キッチンを使ってもいいですか?」
マンションで樹先生の帰りをじっと待っているだけでは物足りない。掃除や洗濯など、なにか手伝えることがあればいいのだけれど、触れられたくない物もあるだろう。
でも料理を作るくらいなら、いいよね?
期待を込めたまなざしを向けると、樹先生がクスッと笑った。
「なにか作ってくれるの?」
「はい」
「それは楽しみだ。急いで帰るよ」
「はい。待ってます」
「うん」
作れる料理は少ないけれど、喜んでくれたらうれしいな……。
早くも明日に思いを馳せていると、樹先生がシートベルトをはずして身をのり出した。
口もとに微かな笑みを浮かべた顔が間近に迫り、胸がドキリと跳ね上がる。
太陽は傾き始めたものの、外はまだ明るい。もしかしたら通行人に見られてしまうかもしれないという思いが脳裏をかすめた。けれど大好きな人からのくちづけを拒むつもりはない。
キスを求めて近づいてくる形のいい唇を見つめて思う。
うれしい感情と切ない感情が入り混じるのは、これがお別れのキスだからだ。
このまま時間が止まってしまえばいいのに……。
叶わない願いを胸に抱いて瞼を閉じると、ふたりの唇が重なった。