独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする

「金沢のお土産どうぞ」

「ありがとう。どうだった? 樹先生の実家は」

「緊張したけど無事に挨拶できたよ」

「そうなんだ。よかったね」

「うん。ありがとう」

とくに取り柄のない私を、温かく迎え入れてくれたご両親には感謝しかない。

「まさか恋愛未経験だった華が、こんなに早く結婚するとはね……」

美咲が感慨深げに言う。

私だって、樹先生と結婚できるとは思ってもみなかった。

人生なにが起きるかわからないよね……。

美咲につられるようにしみじみしていると、セットドリンクが運ばれてきた。アイスコーヒーをひと口飲む。

「美咲のほうはどうなっているの?」

美咲には薬科大学時代の飲み会で知り合った、五つ年上の彼氏がいる。付き合って三年以上経つし、そろそろ進展があったのではないかと思って尋ねた。けれど……。

「実は別れたんだ」

突然の告白に耳を疑った。

「えっ? どうして?」

ひとり暮らしをしている彼の家に頻繁にお泊りしていたし、ゴールデンウィークには北海道旅行もしていた。

いずれは結婚するのだろうなと思っていたのに、別れたと言われても信じられない。

「好きな女ができたんだって」

美咲が笑みを浮かべながらカラッと言う。

明るく振舞っていても、猫のような丸い目は潤んでいる。

無理して笑う姿を見たら、胸がズキリと痛んだ。

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