独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「おかえりなさい」
「ただいま」
帰りを出迎えた私の唇に、温かい唇がそっと重なって離れる。
これって、ただいまのキスだ……。
「ん? もっと?」
「えっ?」
「物足りない顔してるから」
樹先生が首をかしげる。
ついさっきの妄想が現実となったことが信じられなくて、ポーとしたまま立ちすくんでいたから、物足りないと思われたのかもしれない。
「そ、そんなことないです」
慌てて首を左右に振ると、大きな手で頭をなでられた。
「なんだ、残念」
「……」
しまった。否定しなければ、もう一度キスしてもらえたんだ……。
チャンスを自ら潰してしまったことを後悔した。
「そのエプロン、とても似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます」
くちづけを落とされて、頭をなでられて、褒められたら、平静を保てない。
胸をドキドキさせながら、樹先生の後に続いてキッチンに向かった。
「今日はカレーかな?」
樹先生が調理台の上に置いていたカレールーに気づく。
「はい。夏野菜のキーマカレーです。でも、まだできてなくて……」
「手伝うよ」
仕事で疲れているのに、手伝ってもらうのは気が引ける。けれど、料理に不慣れな私ひとりで作るより、ふたりのほうが効率がいい。