独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする

「おかえりなさい」

「ただいま」

帰りを出迎えた私の唇に、温かい唇がそっと重なって離れる。

これって、ただいまのキスだ……。

「ん? もっと?」

「えっ?」

「物足りない顔してるから」

樹先生が首をかしげる。

ついさっきの妄想が現実となったことが信じられなくて、ポーとしたまま立ちすくんでいたから、物足りないと思われたのかもしれない。

「そ、そんなことないです」

慌てて首を左右に振ると、大きな手で頭をなでられた。

「なんだ、残念」

「……」

しまった。否定しなければ、もう一度キスしてもらえたんだ……。

チャンスを自ら潰してしまったことを後悔した。

「そのエプロン、とても似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」

くちづけを落とされて、頭をなでられて、褒められたら、平静を保てない。

胸をドキドキさせながら、樹先生の後に続いてキッチンに向かった。

「今日はカレーかな?」

樹先生が調理台の上に置いていたカレールーに気づく。

「はい。夏野菜のキーマカレーです。でも、まだできてなくて……」

「手伝うよ」

仕事で疲れているのに、手伝ってもらうのは気が引ける。けれど、料理に不慣れな私ひとりで作るより、ふたりのほうが効率がいい。

< 134 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop