独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「ありがとうございます」
「うん」
樹先生が包丁を手に取り、ナスとピーマン、トマトとパプリカを手際よく刻んでいく。
「さすが外科医。あざやかですね」
慣れた手つきに感心してしまった。
「メスと包丁は違うから」
樹先生がクスッと笑う。
「そうには、見えないけど……」
「ひとり暮らしが長いからね。大抵のことはできるようになるよ」
自分の部屋の掃除はするけれど、洗濯と料理は母親任せ。これでは、いいお嫁さんになれそうにない……。
「私、なにもできなくて……」
しょんぼりうなだれていると、腰を屈めた樹先生に顔を覗き込まれた。
「誰だって初めから家事をうまくこなせるわけじゃないし、家のことを華にすべて押しつけるつもりはないよ。ふたりで協力するのが一番いいと俺は思ってる」
思いやりにあふれた言葉を聞いていたら、落ち込んでいた気持ちが軽くなった。
「ありがとうございます。無理しすぎないようにがんばります」
「うん」
焦らなくていい。少しずつ前に進もう……。
作れる料理はまだ少ないけれど、数年後にはもっとレパートリーが増えているはずだ。
お互いを見つめて微笑み合った。