独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
バレンタインの真実
樹先生との仲が深まった夏休みが終わり、三週間が経った九月第二週の日曜日。
物ごとを行うのにもっとも縁起のいい日とされている大安吉日の今日。樹先生と結納を交わすために、両親とともに家を出た。
純和風の庭園が見えるホテルの日本間の上座に、結納品と結納返しの品が並ぶ。
「本日はお日柄もよく……」という父親の挨拶で始まった結納も無事に終わり、今は和やかに会食が進んでいる。
「本当にかわいらしいお嬢様ですこと」
樹先生のお母様がフフフと笑った。
今日は牡丹の花が咲き乱れる赤い振袖をまとい、肩まで伸びた髪をアップにしているため、しとやかに振舞うことを心がけた。それなのに幼く見えるなんてショックだ……。
「取り柄といえば愛嬌がいいことくらいでして……。お恥ずかしい限りです」
母親がホホホと笑う。
そんなこと、結納の場で言わなくてもいいのに……。
人に自慢できるような長所がないことくらい、自分でもわかってる。でもそれをみんなの前で指摘されるのは、いい気がしない。
小さく頬を膨らませていると、樹先生と視線が合った。
黒のシックなスーツがとても似合っているけれど、向かいの席で笑いを必死に堪えているように見える。
きっと、この状況にヤキモキしている私を見て楽しんでいたんだ……。
改まった場でも、常に余裕がある樹先生をうらめしく思った。