独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「左手出して」
「はい」
差し出された大きな手に左手を重ねると、婚約した証であるエンゲージリングが左薬指を静かにすべっていった。
感嘆のため息を漏らして、サイズがぴったりと合ったリングをうっとりと見つめる。
「好きだよ。一生大切にする」
耳もとでささやかれた甘い言葉が、頭の中でとめどなくリピートされた。
えっ? どういうこと?
衝撃を受けて、弾かれるように顔を上げた。
プロポーズされて、デートを重ねてキスもした。そして今日は結納を交わした。けれど私を大事にしてくれるのは、院長の娘だからでしょ?
樹先生が次期副院長の座を狙っている事実を知っていながら結婚することを選んだ私にとって、彼の口から初めて出た『好き』という二文字をすぐに信じることができなかった。
「……好きって……私を?」
「……えっ?」
樹先生の顔から瞬く間に笑みが消えた。
ブラウン色の瞳が左右に揺れ動き、口もとがわずかに引きつっている。
どんなときも冷静沈着で、常に余裕を見せていた彼が、こんなに動揺している姿を見るのは初めてだった。