独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「おかえりなさいのキスを待っているんだけど」
「……えっ?」
耳を疑うような返事を聞き、心臓がドキリと跳ね上がる。
「華のほうからキスしてくれると、うれしいんだけどな」
首をかしげてせがまれてしまったら、無理だとは言いにくい。けれど、恋愛初心者の私からキスをするのはハードルが高すぎる。
「で、でも……」
決心がつかずあたふたしていると、樹先生の腕が腰に回った。
「ほら、早く」
身動きが取れない私に顔を近づけ、耳もとに吐息を吹きかてくる。
「ひゃっ! も、もう!」
私を急かして挑発するような態度を取る意地悪な樹先生を睨んでも、腰に回った腕の力は緩まなかった。
このまま拒み続けても埒が明かない。
よ、よし……。
覚悟を決めてキュッと瞼を閉じる。そして背伸びをすると、形のいい唇に自分の唇をそっと重ねた。
恥ずかしいけれど、幸せ……。
やわらかくて温かい感触を心地よく思いながら唇を離した。
「よくできました」
樹先生が私の両頬に手を添え、額をコチンと合わせて微笑む。
そんなに喜んでくれるのなら、次のおかえりなさいのキスも、私のほうからしてみようかな……。
心の中でコッソリ思った。