独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
しばらくの間、頭を悩ませていると樹さんがクスッと笑った。
「その日は俺が華にプロポーズした日だよ」
「……えっ」
「覚えてない?」
樹さんに顔を覗き込まれる。
神楽坂の料亭でプロポーズされたときのことは、ハッキリと覚えている。けれど、あのときは突然の出来事に驚いてしまい、感動に浸る余裕などなかった。
そうだ。あの日は雨が降っていた……。
当日のことが、徐々に頭によみがえってきた。
「日にちまでは……。ごめんなさい」
ふたりの記念日といえる日を、きちんと覚えていなかったことを申し訳なく思った。
「いや、華が謝ることじゃないよ。プロポーズした一年後に結婚するのもいいんじゃないかって思っただけだから」
樹さんの手が頭の上でポンポンと跳ね上がる。
プロポーズされた日と結婚記念日が同じなら、今後絶対に忘れることはない……。
「一生、忘れられない日になりますね」
「うん。そうだね」
落ち込む私を励ましてくれる優しさに甘えて、大きな体にもたれかかった。
ギュッと抱きしめてほしいな……。
温かい胸に頬を寄せて、逞しい腕が背中に回るのをじっと待つ。けれど私の願いは残念ながら叶わなかった。