独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「改めて華にお願いがあるんだ」
樹さんが体を離し、姿勢を正す。
そういえばブライダルフェアの試食会のときも、お願いがあるって言っていたっけ……。
話が途中になっていたことを思い出し、背筋を伸ばしてソファに座り直した。
「なんでしょうか」
「再来週の日曜日、動物園に行ってほしいんだ」
えっ? 動物園?
子供が喜びそうな場所に行きたがるとは意外だと思ったものの、断る理由などひとつもない。
「はい。喜んで」
思いがけないデートの誘いに気分が高ぶり、頬が緩んだ。けれど私とは対照的に、樹さんの眉間にシワが寄る。
「いや、俺とじゃなくて……。悠太君たちと一緒に動物園に行ってもらいたんだ」
「えっ?」
あまりにも唐突なお願いが理解できず、首をかしげた。
悠太君の手術は二週間後の水曜日と聞いている。再来週の日曜日は手術前だから動物園には行けるけれど、どうして私が?という思いが拭えない。
それに樹さんが言う『悠太君たち』の中には、きっと綾香さんも含まれているはずだ。
「つまり、綾香さんと悠太君と私の三人で、動物園に行ってほしいということですか?」
少ない情報を頭の中で整理して尋ねると、樹さんが静かにうなずいた。