独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
久しぶりに会えたのに彼女の狙い通り、気まずい雰囲気になってしまったことを悔しく思った。
「今日はこれで帰ります」
「えっ?」
樹さんの驚く声を背中越しに聞きながら、バッグを胸に抱えて廊下を進む。
この先も彼女に振り回されるのかもしれないと思ったら、いたたまれない気持ちになってしまったのだ。
靴を突っかけたまま外に飛び出す。けれど、すぐに玄関のドアがバタンと開いた。
「華!」
部屋から勢いよく出てきた樹さんが、こちらに向かって走ってくる。
どうしよう、また責めるようなこと口走ってしまうかもしれない……。
言い合いになるのが怖くて樹さんを避けるように後ずさりした。でも、すぐに手首を掴まれてしまう。
「綾香となにがあった?」
「えっ?」
「華が人のことを悪く言うなんて、よっぽどのことがあったんだろ?」
詳しい事情を打ち明けていないにもかかわらず、心情を察してくれる言葉を聞いた瞬間、涙が込み上げてきてしまった。
「私……樹さんを綾香さんに盗られてしまうんじゃないかって、不安なんです」
声を震わせ、胸に燻っていた思いを必死に訴える。