独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「俺が好きなのは華だけだよ。信じられない?」
私を見つめる優しいまなざしが、緩やかな弧を描いた。
元カノと再会しても、樹さんの心はちっとも揺らいでないのに……。
「ごめんなさい」
綾香さんの言動をいちいち気にして、ひとりで勝手に取り乱してしまったことを反省した。
「いや。華の気持ちをもっと考えるべきだった。俺のほうこそごめん」
樹さんが温かい指先で、頬に伝う涙を拭ってくれる。
瞳を閉じてその厚意に甘えていると、徐々に気持ちが落ち着き始めた。
「部屋に戻ろうか」
「はい」
まだ一緒にいられる喜びを噛みしめながら足を一歩踏み出した。すると樹さんが靴を履いていないことに気づく。
「あっ、靴……」
「家に上がるときに靴下を脱げばいいだけだから気にしないで」
樹さんが朗らかに笑う。
「ありがとう」
「うん」
お互いの思いを伝え合わなかったら、きっとわだかまりができていたはずだ。
靴を履かずに急いで追い駆けてきてくれたことを、うれしく思った。