独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
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「はじめまして。誠君と同期の桐島樹です」
兄の白石誠が自宅に連れてきた、笑顔が素敵なカッコいい樹先生を好きだと自覚したのは、中学三年生の冬だった。
二月になると教室のあちらこちらで、バレンタインの話題が飛び交う。
いいな。私も樹先生にチョコを渡したいな。そうだ。苦手な数学の勉強を見てくれたお礼と言って渡せば、不自然じゃないよね……。
我ながらいい口実を思いついたとニヤけながら、バレンタインに手作りチョコを渡す決心をした。
ネットで本格的なトリュフチョコレートの作り方を調べ、キッチンで動画を見ながら二時間かけて作った。
うまくできたかな?
味をたしかめるために、完成したトリュフチョコレートを口に入れる。
んっ! おいしい!
口の中でなめらかに溶けるトリュフチョコレートは驚くほどおいしくて、手のかかるテンパリングをがんばってよかったと思った。
バレンタインデー当日。学校から帰ると一目散に病院に向かい、医局で樹先生を呼び出した。
白衣姿はとてもカッコよくて、心臓はバクバクと張り裂けそうな音を立て、季節は冬だというのに顔も体も熱く火照ってしまった。
それでも、ここで照れていては一生懸命作ったチョコが無駄になってしまう。
気合いだ、気合い!
運動部のようなかけ声を心の中でつぶやき、足を一歩踏み出した。