独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「やっぱり樹は頼りになる」
綾香さんが足を一歩踏み出し、樹さんに思い切り抱きついた。
ふたりの体が密着するのを目のあたりにしたショックは大きくて、呆然と立ち尽くしたままふたりを見つめていると綾香さんと視線が合った。
私をあざ笑うように、彼女の唇の端がニヤリと上がる。
きっと私がダメージを受けるのを狙って、わざと抱きついたんだ……。
まんまと策略にはまってしまったことを悔しく思いながら、下唇を噛みしめた。すると背後から足音が聞こえ、加藤君が姿を現した。
「白石。ちょっと来て」
「えっ?」
いったい、どうしたんだろう……。
顔をしかめて普段とは違う様子を見せる彼を気にしていると、不意に手首を掴まれてしまった。
「ねえ、どうしたの?」
「……」
病棟とは反対の方向に走り出した加藤君に、大きな声で尋ねてみても返事はない。
もう、なんなの……。
ひきずられるように足を進めていると、病院の敷地を出た先で加藤君が止まった。
私の手首を掴んでいた手が離れる。