独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「樹さんに会いたくなって医局に行こうとしたんですけど、やっぱり迷惑かなって思って……」
伏し目がちに事情を説明すると、突然手首を掴まれてしまった。
「……っ!?」
無言のまま、私の手を引いて足を進める彼のあとをついていく。
なに? 私、変なこと言ったちゃった?
わけがわからず混乱していると、心臓外科の外来待合室にたどり着いた。
「座って」
樹さんがベンチに腰を下ろし、自分の隣を手のひらでトントンと叩いた。
「……はい」
すでに診察時間が終わったこの場所に、人の姿はない。
「手術、お疲れさまでした」
「うん。ありがとう」
膝の上にのせていた手に、樹さんの手が重なった。
心地いい温もりを感じたら、ふたりきりになれた喜びがジワリと込み上げてくる。
「悠太君の様子を見にいったら、綾香さんに幸せになってねって言われました」
「そうか。それはよかった」
「はい」
お互いの指を絡ませて微笑み合った。
このままずっと一緒にいたいという気持ちが、胸いっぱいに広がる。けれど、いつまでも、こうしているわけにはいかない。