独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
神楽坂に着いたタクシーから降りると傘を差し、裏通りの細い階段を上がった。
道路の両側に雑居ビルが立ち並ぶメイン通りとは違い、裏路地は隠れ家のようなレストランや民家がひしめき合っている。その様子を興味深く眺めながら足を進めた。すると、樹先生が不意に立ち止まって傘を閉じた。
雨足はさほど強くないものの、このままでは濡れてしまう。
「どうしたんですか?」
腕を伸ばして傘を差しかけた。
「雨ですべったら危ない。俺に掴まるといい」
樹先生が私の傘に入り、柄を握る。
大人っぽく見られたくて、今日は七センチヒールのパンプスを選んだ。普段履き慣れていないせいか、どうしても歩き方がぎこちなくなってしまう。
派手に転ぶ姿を見られるのは恥ずかしいし、お尻をしたたかに打つのは絶対に嫌だ。
「ありがとうございます」
傘を差すのは任せることにすると、樹先生の腕に掴まった。
ひとつの傘の下で身を寄せ合う。
ジャケットの上からでも、腕にほどよく筋肉がついていることがわかるし、柄を握る手の甲に浮き出る血管に男らしさを感じて目が離せない。
雨は嫌い。でも樹先生と相合傘できるのなら、悪くないかも……。
調子がいい自分にあきれながら、肩を並べて足を進めた。