独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「ん、おいしい」
すっきりとした味わいと、フルーティーな香りがする吟醸酒はとても飲みやすい。再び口をつけると、樹先生がクスクスと笑った。
「こらこら。そんなに早いペースで飲むんじゃない」
「あ、はい」
そうだった。今日は大人のお酒の飲み方を教わるんだった。
グラスをテーブルの上にコトンと置き、そのときを静かに待った。けれど肝心の彼は朗らかな笑みを浮かべて料理を味わって、お酒を飲むだけ。
いつになったら教えてくれるのだろうと思っていると、ようやく視線が合った。
「ん? どうした?」
「今日は大人のお酒の飲み方を教えてくれるんでしたよね?」
酔ってみっともない姿をさらすのは、もう二度とごめんだ。
これからは“酒は飲んでも飲まれるな”をモットーに、スマートにお酒をたしなむ女性になるんだから。
「そんなの口実だ」
樹先生の唇の端が上がる。
「口実?」
「ああ」
意味がわからず首をかしげていると、笑みが消えた。
「今日、華ちゃんを食事に誘ったのは大事な話があるからだ」
樹先生が空になったグラスをテーブルに置いて、正座をする。