独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「ど、ど、どうして私と?」
付き合うという過程を飛ばして、いきなりプロポーズするなんて尋常じゃない。
パニックに陥り、しどろもどろになってしまった。
「俺もいい歳だし、そろそろ身を固めたいと思ってね」
樹先生が正座していた足を崩した。
三十六歳の彼が結婚願望を抱くのは普通のことなのかもしれない。けれど、その相手がどうして私なのかがわからない。だって私は過去に一度、フラれている。
なにがなんだかわからず、言葉に詰まってしまった。
「俺のこと、嫌いか?」
彼の眉間にシワが寄る。
「まさかっ!」
息抜きのためにふらりと姿を現す樹先生を見るとときめいてしまうし、今日の食事もすごく楽しみにしていた。
好きだという思いは中学三年生のあのときから、少しも変わっていない。
「だったら問題ないじゃないか。院長の都合のいい日に挨拶に行くから、そのつもりでいてくれ」
「……」
結婚って、こんなに簡単に決まるものなの?
淡々と進む話が他人事のように思えてならない。
好きな人からプロポーズされたのに、素直に喜べないのはどうしてだろう……。
「返事は?」
「あ、はい」
我に返ると、樹先生が満足そうに微笑んだ。