独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
めでたいと言って浮かれる父親が、グラスにブランデーを注ぐ。院長であり、近い将来義理の関係になる父親からの勧めを樹先生が断れるはずない。
まだ太陽が沈んでいない時間からブランデーを飲み始め、出前のお寿司を食べ終えたのは、午後八時すぎだった。
暗がりの中、呼び出したタクシーが到着するのをガレージの前で待つ。すると、なんの前触れもなく樹先生の指が左手に触れた。
えっ? なに?
突然のスキンシップに驚き、心臓が跳ね上がった。
自慢じゃないけど、今まで一度も男の人と付き合ったことがない。だからデートもしたことない人に手を触れられるのが、普通なのかそうじゃないのか、ちっともわからなかった。
お互いの指が絡まる様子を、ドキドキしながら見つめる。
「何号?」
「はい?」
「左薬指のサイズ」
長くて細い指先を絡めてきたのは、サイズを探るためだということにようやく気づいた。
左薬指ってことは……。
エンゲージリングが頭にちらついた。けれどサイズを聞かれても困る。