独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「……はい」
左薬指にダイヤモンドがキラリと輝く様子を想像して頬を緩めていると、辺りが急に明るくなった。
まぶしさに目を細める。
ヘッドライトを消したタクシーが私たちの前で止まり、繋がれていた手がスッと離れた。
甘さを含んだスキンシップから解放され、高ぶっていた気持ちが徐々に落ち着き始める。
「また連絡する」
「はい」
樹先生が後部座席に乗り込み、窓が開く。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
タクシーが角を曲がって見えなくなるまで、手を振って見送った。
挨拶を済ませたばかりだというのに、早々と次のステップに進もうするのは、次期副院長の座を確実なものにしたいからなのかもしれない。
ついさっきまで、ふたりで過ごしたロマンチックな時間が嘘のように頭が冷えていった。
こんな気持ちのまま、準備を進めても大丈夫なのかな……。
エンゲージリングを選びに行く約束を交わしても、結婚する実感がちっとも湧かなくて、胸に不安が渦巻いた。