独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
不意の呼び出し
樹先生が結婚の挨拶に来てから、二週間が経った七月の日曜日。今、私たちは銀座の『ハートジュエリー本店』二階のブライダルコーナーにいる。
シャンデリアの光を受けてショーケースの中の宝石がまぶしく輝く光景を目にしたら、彼の腹黒い企みなど頭からすぐに抜け落ちてしまった。
「とてもよくお似合いですよ」
「ありがとうございます」
エンゲージリングの試着を繰り返す私に、店員さんがにこやかな笑みをたたえる。けれど樹先生の表情は浮かない。
「どれも気に入らない?」
「そ、そんなことないですけど……」
大粒のダイヤモンドをあしらったリングは、どれもうっとりするほど美しい。しかし数字のゼロがズラリと並んだプライスタグを見てしまったら、気後れせずにはいられなかった。