独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
手を引かれ、銀座の街を歩く。

体にまとわりつく湿気を含んだ蒸し暑い空気は不快だけれど、繋がれた手から伝わる体温は心地いい。

心を弾ませながら握られた手にキュッと力を込めた。

しばらくすると、大通りから一本入った裏道のビルの八階にあるフレンチレストランに着いた。

アンティーク調のテーブルとイスが並ぶシックな店内を進む。案内された個室に入ると、慣れた様子でワインと料理をオーダーしてくれた。

「再来週の日曜日だけど、なにか予定ある?」

「いいえ」

悲しいことに日曜日は来週も再来週も、とくに用事はなにもない。

「だったら日帰りになるけど、一緒に金沢(かなざわ)の実家に行ってくれないか?」

私の様子をうかがうように、樹先生が首を傾げた。

樹先生は病院から徒歩十五分ほどの距離にあるマンションで、ひとり暮らしをしている。実家が金沢だということは、以前聞いたことがあった。

緊張するけれどご両親にきちんと挨拶して、結婚を認めてもらわなければならない。

「よ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」

余裕の笑みを浮かべる樹先生に、ぎこちなく頭を下げた。

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