独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「失礼します」
個室に入ってきたソムリエが赤ワインを注ぐ。
「乾杯しよう」
「はい」
グラスをカチンと合わせると、ワインが静かに波立った。
「乾杯」
「乾杯」
テーブルの上でキャンドルの炎がゆらりと揺れる。その前でグラスに顔を近づけて、ワインの香りを楽しむ仕草は、とてもさまになっている。
やっぱり素敵だな……。
カッコいい姿に見惚れていると、スマホがブルブルと震える音が聞こえてきた。
「すまない。出てもいいか?」
「はい。どうぞ」
樹先生がジャケットの内ポケットからスマホを取り出し、応答ボタンをタップする。
「はい。桐島です」
スマホを耳にあてて眉間にシワを寄せる様子を見たら、胸騒ぎがした。
あたり前だけど相手の声は私には聞こえない。だから誰とどんなことについて話をしているのかはわからない。でも深刻な表情で「ああ」を繰り返す様子を見れば、それがいい話ではないということだけは、すぐにわかった。
「すぐに向かう」と言い残し、通話が終わる。
最後の言葉を聞いたら、なにが起きているのか瞬時に理解できた。
ワインを飲む前でよかった……。
「患者さんが急変したんですね?」
「……ああ」
樹先生が大きなため息をつく。