独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする

「早く病院に行ってください」

「しかし……」

歯切れ悪く躊躇(ためら)うのは、この場に私をひとり残すことに後ろめたさを感じているからだろう。

高級フレンチレストランにひとり取り残されるのは正直心細い。でも駄々をこねて困らせるようなことはしたくないし、患者さんの身に万が一のことがあったら、樹先生も私も一生悔いが残る。

「私なら大丈夫ですから」

不安な素振りを見せないよう、必死に作り笑顔を浮かべると強がった。

「……本当にすまない。この埋め合わせは必ずする」

「はい」

責任感の強い樹先生らしい言葉だなと思いながら、イスから立ち上がった。

「タクシをー呼びますか?」

「いや。地下鉄のほうが早い」

夕方の銀座周辺の道路は渋滞が多い。樹先生の言う通り、地下鉄で移動したほうが赤坂にある病院に早く到着するだろう。

個室から出て行く彼の後を追う。しかしドアの前で足が止まった。

「ここでいい」

「で、でも……」

病院までついて行こうとしてるわけじゃないのに……。

見送りを断られる理由がさっぱりわからない。

もしかして、迷惑だった?

なすすべもなく立ちすくんでいると、樹先生が振り返った。

「見送られたら、離れがたくなってしまう」

「えっ?」

背中に腕が回り、力がこもった。

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