独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
こ、これってハグだよね?
突然の出来事に動揺してしまい、指先すら動かせない。
「いってくる」
「は、はい。いってらっしゃい」
条件反射で返事をすると腕がするりと解け、樹先生が笑みを浮べて個室から出ていった。
ひとりになった途端、抱きしめられた感触が鮮明によみがえってきた。
樹先生の胸は広くて温かかった……。
今になって心臓が爆発しそうな勢いで音を立て始め、ヨロヨロしながらイスに腰を下ろした。
ワインをひと口も飲んでないのに頬が熱く火照り、体が小刻みに震え出す。
ど、どうしよう。恥ずかしいのに、うれしい……。
高鳴る胸に手をあてながら、甘さを含んだ余韻に浸る。しばらくすると乱れていた呼吸が徐々に整い始めた。
胸がいっぱいで、料理を食べても味なんかわかりそうもない。お店の人には申し訳ないけど、今日はこれで帰ろう。
そう思い、バッグを手に取った。すると個室のドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。お連れさまがお見えになりました」
「えっ? お連れさま?」
思いあたるのは、一緒に来店した樹先生だけだ。
もしかしたら患者さんの容態が落ち着いて、病院に戻らなくてよくなったのかもしれない。
気持ちが高ぶるなか、急いでイスから立ち上がった。
「よっ!」
兄が片手を軽く上げて個室に姿を現す。