独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
フラれた悲しみと、チョコを受け取ってもらえなかった悔しさが入り混じった感情が涙となって頬を伝う。
こんなもの、作るんじゃなかった……。
投げやりな気持ちのまま、チョコが入った箱をゴミ箱に捨てようとした。けれど、食べ物を粗末にすることなどできない。
泣きながらラッピングを解くと、トリュフチョコレートを口に放り入れた。
味見したときよりもほろ苦く感じるのは、きっと失恋したからだ。でもやっぱり、おいしい……。
ひょっとしたら私って、パティシエの才能があるのかもしれない!
単純な私はこの出来事がきっかけで、お菓子作りに目覚め、高校に進学すると迷うことなく製菓部に入った。
クッキーにプリン、ケーキに和菓子など、さまざまなお菓子を作る毎日はとても楽しくて、将来はパティシエになりたいと思うようになった。
しかし、その夢も進路を決めるときに儚く散った。
父親には「なにふざけたことを言ってるんだ」と相手にされず、母親には「もっと現実を見てちょうだい」と嘆かれ、兄には「パティシエになるのも大変だぞ」と難しい顔をされた。
応援してくれる人がひとりもいない状態で、パティシエになりたいという夢を貫き通せるほど強くない。
結局、親の勧めもあり、薬剤師になるために薬科大学を受験することに決めたのだった。
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