独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「うまいな」
「うん」
兄が奥二重の瞳を細めて笑った。
幼い頃は『華ちゃんのお兄ちゃんって、カッコいいよね』と、友だちに言われるのがうれしかったし、ショートケーキの上にのっているイチゴをくれる優しい兄が大好きだった。
けれど今は、目の間にいるのが樹先生だったらよかったのに……と、思ってしまう。
「どうだ? 樹にプロポーズされた気分は」
少しブルーな気持ちでいる私とは対照的に、兄はおいしいお酒と食事にご機嫌だ。
樹先生の腹黒い企みは、まだ誰にも相談できずにいる。
そうだ。兄とふたりきりの今がチャンスなのかもしれない。
「あ、あのね……」
彼が副院長の座を密かに狙っていることを打ち明けようと思ったものの、証拠もないのに騒ぎ立てるのはよくないのかもしれない。
そんな思いが込み上げてきてしまい、言葉に詰まってしまった。
「でも華の結婚相手が樹でよかったよ。アイツになら、お前を安心して任せられる。おめでとう、華」
兄が話を進める。
母と同じことを言い、結婚を心から祝ってくれる穏やかな笑顔を見たら、もうなにも言えない。