独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
樹先生はいいお医者さまだし、患者さんからの信頼も厚い。それに両親も兄も、彼のことを気に入ってる。
樹先生が副院長になっても、なにも問題ない。
心からそう思えた。
「うん。ありがとう」
気持ちを切り替え、ワインに口をつけた。
「日菜ちゃんは元気?」
同じ敷地内に住んでいても、生活スタイルが違う兄家族と顔を合わせる機会は多くない。
「元気、元気。もう数も数えられるしさ、俺に似てきっと頭がいいんだな」
兄が自慢げに胸を張り、体の前で腕を組む。
姪っ子はかわいいけれど、親バカ全開な兄に付き合うのは疲れる。
「あ、そ……」
適当にあしらうと、メイン料理が運ばれてきた。
仔牛のフィレステーキはとてもやわらかくて、頬が落ちそうなほどおいしい。
「うまいな」
「うん」
ついさっきまで日菜ちゃんの自慢話をしていた兄と一緒に、黙々と料理を味わう。あっという間にステーキを食べ終え、デザートも綺麗に完食した。
「じゃあ、帰るか」
「お会計は?」
「樹のおごりだ」
「そ、そうなんだ」
あの慌ただしかったなか、先に支払いを済ませてくれていたことに驚いてしまった。
「今度、お礼言っておけよ」
「うん」
今頃、樹先生は患者さんを診ているのに……。
ステーキに夢中になってしまったことを、申し訳なく思った。