独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「謝らないでください。患者さんは大丈夫だったんですか?」
「ああ。大丈夫だ」
「よかった。あ、どうぞ上がってください」
きっと、樹先生の処置がよかったんだ。
ホッと胸をなで下ろす。
「いや、今日はもう遅いから、これで帰る」
「……そうですか」
家に上がるように勧めたけれど断られてしまった。
明日は月曜日で仕事がある。
そうわかっているのに、まだ一緒にいたい気持ちが心の中で大きく膨らんでしまうのを止められず、しょんぼりと肩を落とした。
「食事はおいしかった?」
腰を屈めた樹先生に、顔を覗き込まれる。
不意に縮まった距離が恥ずかしくて、頬が熱を帯びた。
「はい。仔牛のフィレステーキがとてもおいしかったです。ごちそうさまでした」
「それはよかった」
姿勢をもとに戻して朗らかに笑う様子を見ていたら、つられるように笑みがこぼれた。
大好きな人の笑顔は心が和む。
「あ、そうだ。兄に連絡してくれてありがとうございました。本当のことを言うと、ひとりは心細かったんです」
本心を正直に打ち明けた途端、笑みを浮かべていた表情が一変してしまった。