独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
うわぁ、恥ずかしい……。
一気に火照った顔を、両手で隠したくなる衝動に駆られてしまった。
私、樹先生とキスしちゃったんだ……。
頬に唇が軽く触れただけだったとはいえ、ずっと思い続けていた人にキスされたことが信じられなかった。
「大丈夫?」
樹先生の顔が真っ直ぐ見られない。
「……は、はい」
「そろそろ帰るよ。おやすみ」
うつむく私の頭の上に大きな手がのり、ポンポンと優しく跳ね上がる。
「お、おやすみなさい」
チラリと視線を上げると、タクシーに向かう樹先生の後ろ姿が見えた。
きちんと顔を見ずに別れるのは嫌だ。いつまでも恥ずかしがっている場合じゃない!
羞恥を振り払うと、急いで後を追った。
樹先生が後部座席に乗り込み、窓が開く。
「また連絡する」
「はい。気をつけて」
短い挨拶を交わし、静かに走り出したタクシーを見送った。
角を曲がったタクシーが見えなくなっても、優しいくちづけが頭から離れない。
唇が触れた頬にそっと手をあててみると、ほんのりと熱を帯びているような気がした。