独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
トラブル発生
七月中旬の木曜日。一日の業務を終えて、西野さんと通用口から外に出た。
うわぁ。暑い……。
体にまとわりつく湿度の高い空気を不快に感じながら駅に向かった。すると、背後から名前を呼ばれる。
「華!」
この声は樹先生だ。
頬にキスされてから会うのは今日が初めてで、どんな顔をすればいいのかよくわからない。
戸惑いつつ振り返ると、白衣の裾を揺らしてこちらに向かって走ってくる姿が見えた。
「桐島先生、お疲れさまです」
西野さんが樹先生に挨拶する。
うっ、また先を越されてしまった……。
「お疲れさまです」
「お疲れさま」
慌てて挨拶する私に、樹先生がにこやかに微笑んでくれた。
猛暑日が続いていても白い歯を見せて笑う様子は普段と変わらず爽やかで、どんな顔をしたらいいのかという迷いはすぐに消え去った。
「桐島先生。八月四日の日曜日なんですけど、くるみ薬局のみんなでバーベキューをすることになったんです。よかったからご一緒にどうですか?」
樹先生を誘う西野さんを驚いて見つめた。
誰が言い出したのかハッキリとはわからないけれど、いつの間にか飲み会を兼ねたバーベキュー大会の開催が決まっていた。
強制参加ではないと言われたものの、用事もないのに断るのは気が引けてしまい、参加すると言ってしまった。