独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「はい、華もどうぞ。気をつけて帰るんだよ」
「はい」
手のひらにキャンディーがポトンと落ちた。
息抜きのために、ふらりと姿を見せた樹先生と久しぶりに会えたのはうれしい。でも、たいした話もできないまま、もう別れなければならないなんて寂しすぎる。
病院に戻っていく樹先生の後ろ姿を、しんみりしながら見つめた。
「ねえ、もしかして桐島先生と付き合ってるの?」
「えっ?」
西野さんに詰め寄られる。
「桐島先生に呼び捨てにされてたじゃない」
鋭い指摘を聞き、センチメンタルな気分が一瞬で吹き飛んだ。
今年の四月にくるみ薬局に入社した私を、親切に指導してくれたのは西野さんだ。彼女には感謝してるし、なにか困りごとがあるなら力になりたいとも思う。
けれど樹先生のことだけは譲れない。彼に馴れ馴れしくしないでほしいし、迫るのもやめてほしい。
「実は……」
「ちょっと待って。外じゃ暑いからどこかお店に入らない?」
事実を包み隠さず話そうすると、言葉を遮られてしまった。
日は沈みかけていても蒸し暑さは変わらず、じっとしているだけなのに額に汗が滲み出す。
ひんやりとしたエアコンの冷気が恋しくなり、すぐに「はい」と返事をした。