独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
料亭に行き『結婚してほしい』と言われたのは、『あのとき』から二週間後のこと。樹先生に彼女がいるのかいないのか、本当に知らなかった。
「嘘っ! 桐島先生のことを気にする私を見て、陰で笑っていたんでしょ?」
「そんなことありません!」
樹先生に馴れ馴れしくする西野さんに嫉妬はしても、おもしろがったりしない。
嘘をついてないことを信じてもらいたくて、つい大きな声をあげてしまった。
駅前のカフェは、学生や仕事終わりのような女性で混雑している。周りの視線が気になり小さく縮こまった。
「いいわよね。親が病院の院長だと、就職先も結婚相手も好きに選べて……」
西野さんがテーブルに頬杖をつく。
「……」
彼女の口から吐き出されたため息交じりの言葉が胸にぐさりと突き刺さった。
西野さんの言う通り、東京赤坂病院近くのくるみ薬局からすぐに内定をもらえたのは、父親の影響が少なからずあったのではないかと思っている。
けれど結婚に関しては、好きに相手を選んだわけじゃない。それでも私が院長の娘じゃなかったら、出世欲がある樹先生にプロポーズされなかったんだ……。
そう思うと胸が痛んだ。