独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
翌日の金曜日。いつものように出社すると更衣室で西野さんと出くわした。
結局、昨日はケンカ別れのような感じでカフェを後にしたため、顔を合わせるのが気まずい。
「お、おはようございます」
ぎこちなく挨拶したものの、西野さんは目を合わせてくれなかった。
「……おはよ」
小さな声でボソリと返事をした西野さんが、カールした毛先を揺らして更衣室から出て行く。
きっと恋敵である私を、憎らしく思っているんだ……。
今まで他愛もない会話を交わして一緒に帰っていた関係が、一瞬で崩れてしまったことを寂しく思った。
仕事が終わり、新宿のダイニングバーで美咲と落ち合った。ビルの八階にあるお店は薬科大学時代、頻繁に訪れた思い出の場所だ。
「変わってないね」
「うん。落ち着くよね」
一見するとカフェと見間違えてしまうようなオシャレな欧風デザインの店内をグルリと見回していると、オーダーしていたグラスビールとサラダが運ばれてきた。
「乾杯」
「乾杯」
黄金色の液体が注がれたグラスをカチンと合わせて口をつける。
暑い夏にはやっぱりビールがおいしい。プハァッと息を吐き出し、美咲と笑い合った。