独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする

「手術することになったよ」という、お父様の言葉が聞こえてくる。

仕事の話?

邪魔をしないように静かにソファに座ると、樹先生が腕時計を見つめた。

「そろそろ帰るよ」

彼の言葉を聞き、リビングの壁かけ時計に視線を向けた。針は午後四時を指している。

お邪魔してから、もうすでに二時間が経っていたことにちっとも気づかなかった。楽しいひとときは、あっという間に過ぎるな……。

樹先生の後に続き、ソファから立ち上がった。

「もっとゆっくりしていけばいいのに」

名残惜しそうなお母様の言葉をうれしく思いながら玄関に向う。

「今度はそうするよ。ね?」

「はい」

振り返った樹先生に、コクリとうなずいた。

挨拶に伺うと決まってから、初めて訪れる金沢について調べてみた。

日本三名園である兼六園(けんろくえん)に行ってみたいし、古いお茶屋の街並みが美しいという、ひがし茶屋街(ちゃやがい)にも寄ってみたい。

次回訪れる際は、観光も楽しみたいと思った。

「今日はありがとう」

樹先生が玄関先でご両親に挨拶する。

結婚を認めてもらったとはいえ、最後まで気は抜けない。

「本日はありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

丁寧に挨拶すると頭を下げた。

「こちらこそ、今日はありがとう」

「今度は結納のときにお会いしましょうね」

「はい」

ご両親の思いやりにあふれた言葉に感謝して、実家をあとにした。

< 71 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop