独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「手術することになったよ」という、お父様の言葉が聞こえてくる。
仕事の話?
邪魔をしないように静かにソファに座ると、樹先生が腕時計を見つめた。
「そろそろ帰るよ」
彼の言葉を聞き、リビングの壁かけ時計に視線を向けた。針は午後四時を指している。
お邪魔してから、もうすでに二時間が経っていたことにちっとも気づかなかった。楽しいひとときは、あっという間に過ぎるな……。
樹先生の後に続き、ソファから立ち上がった。
「もっとゆっくりしていけばいいのに」
名残惜しそうなお母様の言葉をうれしく思いながら玄関に向う。
「今度はそうするよ。ね?」
「はい」
振り返った樹先生に、コクリとうなずいた。
挨拶に伺うと決まってから、初めて訪れる金沢について調べてみた。
日本三名園である兼六園に行ってみたいし、古いお茶屋の街並みが美しいという、ひがし茶屋街にも寄ってみたい。
次回訪れる際は、観光も楽しみたいと思った。
「今日はありがとう」
樹先生が玄関先でご両親に挨拶する。
結婚を認めてもらったとはいえ、最後まで気は抜けない。
「本日はありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
丁寧に挨拶すると頭を下げた。
「こちらこそ、今日はありがとう」
「今度は結納のときにお会いしましょうね」
「はい」
ご両親の思いやりにあふれた言葉に感謝して、実家をあとにした。