独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
元カノと再会
大通りでつかまえたタクシーに乗り込むと、樹先生が行き先を伝えた。
「金沢駅まで」
「はい」
車が静かに動き出す。
夕方になっても外は蒸し暑いまま。エアコンが効いた車内はとても快適で、額に掻いた汗がスッと引いていった。
「今日は本当にありがとう」
樹先生にお礼を言われ、慌ててしまった。
「いいえっ! あの……私、大丈夫でしたか?」
粗相しないように気をつけたものの、やはり不安は尽きない。
「華がトイレに行ってる間、父さんも母さんも、とても素直でかわいらしいお嬢さんだって褒めてたよ」
「ほ、本当ですか!」
「ああ」
ご両親の言葉は社交辞令。そうわかっていても褒められればうれしくて、口もとが勝手に緩んでしまった。
「今度は、おすすめの場所をゆっくり案内するよ」
「はい。楽しみにしてます」
長くて綺麗な指先が、私の指の間にすべり込んでくる。
もう何度も手を繋いでいるのに、突然のスキンシップはまだ慣れなくて、胸がドキドキと音を立てた。
樹先生が言う『今度』がいつになるかわからない。けれど次に金沢を訪れるときは、白石華ではなく桐島華になっているかもしれない。
慣れ親しんだ自分の苗字が変わるのは、なんだか変な気分……。
そんなことを考えながら、指先に感じる温もりを心地よく思った。