独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「樹、結婚するのね」
「ああ」
彼女が視線を落として黙り込んでしまった。
その落胆した様子を目にしたら、綾香さんは元カノで、今でも樹先生のことが好きなのではないかと疑わずにはいられなかった。
でも彼女には悠太君という息子がいる。そして家には、ふたりの帰りを待っている旦那様がいるはずだ。
樹先生と綾香さんは昔からの知り合い。ただ、それだけの関係だと自分に言い聞かせて、綾香さんを見つめた。けれど、彼女の左薬指に指輪がはめられていないことに気づく。
どういうこと?
ふたりの関係を気にしながら様子をうかがった。
「悠太のことで、樹に相談したいことがあるんだけど」
「手術のこと?」
「どうしてそれを?」
綾香さんの目が大きく見開かれる。
「父さんから聞いた」
「そう……」
会話を聞いていたら、実家のリビングで『手術することになったよ』という、お父様の言葉を思い出した。
あのときは仕事の話かと思ったけれど、流れから考えると、手術するのは悠太君ってことだよね?
健康そうに見えるけど、いったいどこが悪いのだろう……。
戸惑いつつ、目の前にいる悠太君を見つめた。