独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「手術は樹にお願いしたいの」
「……父さんは腕のいい医師だよ」
「桐島先生を信頼してないわけじゃないの。でも私は樹に執刀してもらいたいと思ってる」
「……」
綾香さんが樹先生を真っ直ぐ見据える。その揺るぎない視線は、強い決意の表れだと思った。
樹先生がお父様のことを尊敬していることも、綾香さんが天才外科医と呼ばれる樹先生を頼る気持ちもわかる。
どのような返事をするのか興味深く見つめていると、樹先生が腕時計をチラリと見つめた。
「番号変わってない?」
「うん」
「東京に戻ったら連絡する」
「お願い」
お互いの番号を知っている事実を知り、モヤモヤした気持ちが込み上げてきてしまった。
「華。行こうか」
「はい。あ、悠太君、バイバイ」
ふたりの関係と悠太君の病状を気にしつつ手を振った。
「バイバイ」
悠太君が手を振り返してくれる。
素直でいい子だな……。
綾香さんに頭を下ると、その場を離れた。
「時間を取ってごめん。急いでお土産を選ぼう」
「はい」
構内の時計を見たら、出発時間まであと二十分しかないことに気づく。
ヒールをコツコツと鳴らして、脚の長い樹先生に遅れないように小走りした。