独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
ひとりで取り乱して泣き出すなんて、樹先生もあきれただろうな……。
そう思ったら、ますます涙が止まらなくなってしまった。
「……うっ」
声を詰まらせて泣いていると、温かい指先が頬に触れる。
「参ったな……。ヤキモチ妬く華がかわいすぎて、今すぐ抱きしめたくなるから困るよ」
「……っ!?」
耳を疑うような言葉に驚き、弾かれるように顔を上げた。
嫌われたと思ったのに……。
揺らめく視界の先に樹先生が苦笑いする様子が見えて、頭が完全にショートしてしまった。
固まる私の頬に伝う涙を、樹先生が優しく拭ってくれる。
涙はすぐに止まったけれど、今度は胸が高鳴るのを鎮めることができない。
抱きしめたくなるって言ってたけど、冗談だよね……。
心臓がドキドキと音を立てるなか、チラリと様子をうかがうと視線がパチリと合った。
「もう大丈夫かな?」
「あ、はい……」
瞳を細めて微笑む樹先生を見たら、浮ついていた気持ちがスッと落ち着いた。
このままなにも聞かなければ、樹先生のほうから綾香さんのことを話題にすることはないだろう。けれど手術を受ける悠太君のことがどうしても気になってしまう。