独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする

「悠太君って心臓が悪いんですか?」

「うん。小学校の検診で引っかかって、父親の病院で再検査を受けたらしいんだ。俺が執刀することで綾香が安心するのなら、手術を引き受けようと思ってる」

綾香さんの前ではハッキリと返事はしなかったものの、すでに答えは出ているようだ。

「そうですか」

「手術はそれほど難しいものではないから安心して」

「はい」

優秀な心臓外科医である樹先生の手術スケジュールは、かなり先まで埋まっていると聞いている。

無理して執刀せずに体を休めてほしいというのが本音だけれど、樹先生は病気で苦しんでいる患者さんをひとりでも多く救いたいと思っているに違いない。

彼が執刀すると決めたのなら、口出しすべきじゃないと思った。

「ほかに聞きたいことはある?」

そう聞かれて思い浮かぶのは、あのことだ。

「綾香さんはどうして結婚指輪をしていなんですか?」

サイズが合わなくなったとか、家事の邪魔になるとか、それから離婚したとか……。

指輪をしない理由などたくさんある。

どんな答えが返ってくるのか、緊張しながら樹先生の顔を見つめた。

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