独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
樹先生の声を聞いて、安心したい……。
すがる思いでバッグからスマホを取り出すと、おぼつかない手つきでナンバーをタップした。
体に力が入らず、耳にあてるスマホすら重く感じる。
お願いだから出て……。
祈るように呼び出し音に耳を澄ませていると、私の名を呼ぶ愛しい人の声が聞こえた。
『華? どうしたの?』
バーベキューは始まったばかり。早すぎる私からの連絡に驚いているようだ。
「きゅ、急に……体調が……悪くなってしまって……」
よく回らない頭で必死に考えを巡らせながら、たどたどしく現状を説明する。
『今、どこ? バーベキュー会場?』
「はい」
『すぐに行く。そこから一歩も動かないように。いいね?』
「……はい」
返事をすると、すぐに通話が切れた。
樹先生の声を聞いて安心したせいか強い眠気に襲われ、手からスマホがするりとすべり落ちてしまった。
「大丈夫か?」
加藤君が膝の上に落ちたスマホを拾い、バッグに入れてくれる。
「あリがとう」
「調子悪そうだな。家まで送るよ」
なにも言ってないのに、体調がよくないことを察してくれる同期の存在を心強く思った。けれどバーベキューの最中に、迷惑かけてしまうのは心苦しい。