わんこはあなたに恋をした
 皴を伸ばしたチラシを、再びノートに挟んでパタリと閉じる。
「由香ちゃん。私、昨日、失恋した」
「え?」
 由香ちゃんが驚いて、目を大きくしている。その顔に向かって、まるで念押しするみたいにもう一度言った。
「きのう、私は失恋したのです」
 由香ちゃんは、何が何やらわからず、ほんの数秒固まっていたかと思うと、急に大きな声を上げた。
「あ……。アオハルかっ!」
 失恋した悲しみを吹き飛ばすみたいに由香ちゃんが声を上げると、教室のみんなが何事かとこっちに注目するから、それがなんだか可笑しくなって声を上げて笑った。
 クスクス。ケタケタ。ケラケラ。
 笑いながら涙が零れちゃって、それでも私はやっぱり尻尾をフリフリ。わんこみたいに由香ちゃんの腕に絡みついて、笑いながら涙を流して、尻尾を大きくブンブン振るんだ。
 窓からは、梅雨の気配なんてこれっぽっちも感じさせないくらいの陽の光が注いでいた。
 ふわりと吹いた風が、教室のカーテンを揺らす。
 窓から入り込んできた風が、私の髪の毛をサラリと撫でる。
「先輩の指先には、敵わないなぁ……」
 思い出すだけで胸が苦しい。
 痛くて、苦しくて、愛おしい。
 きのう、私は失恋した――――。
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