二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
プロローグ
「うわー、これ、何だろう」
保育園の帰り道、夏瑛は目を輝かせた。
青々と葉の茂った木の幹に、黄金色のふしぎな虫を見つけたからだ。
生きているのかな、こわごわと近づき、そっと触った。
手のひらにのせてみると、細かい毛の生えた細い足も、おなかの模様も、大きな目も、形は虫なのに、中身はからっぽ。
すっかり気に入った夏瑛は、あちこち探しまわり、たくさん集めて家に持って帰った。
「なにこれ! もう、蝉の抜け殻なんて拾ってきちゃだめでしょ!」
冷蔵庫からジュースを出していたとき、向こうの部屋から大きな声がした。
帰宅した母がそれを見つけたのだ。
嫌だ、といって泣き叫ぶ夏瑛にはまったく動じず、母はほうきで掃きあつめ、捨ててしまった。
夏瑛が好きなものを、他のみんなは〝気持ち悪い〟と言うのだ。
保育園の友だちは、またこっそり拾った抜け殻を見せると、「キモチわるーい」と声をそろえた。
それから、大好きなカエルやトカゲの絵を見せても「こんなの、きらい」とそっぽを向かれた。
反対に夏瑛は、友だちが夢中になっているきれいなお姫様の絵やテレビアニメのヒロインにはまるで興味がなかった。
小学生になると、好きなもののことは言わずに周りに合わせることを覚えるようになった。
そんな夏瑛のオアシスは隣町の叔父の家だった。
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