二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
 だが、夏瑛の耳には三人の会話はほとんど入ってこなかった。

 靭也がもっとこっちを見て、話しかけてくれないかなと、そればかり考えていた。

 ふいにジーっという音が聞こえた。窓を見ると網戸に蝉が止まっていた。

「あっ、蝉」夏瑛はよく見ようと網戸に近づいた。

「蝉の羽化って見たことある?」

 えっ、振りかえると靭也が夏瑛のすぐそばに立っている。

「ううん、ない」顔が熱くなるのを感じながら、夏瑛はなんとか答えた。

「おれさ、きみぐらいの頃かな。図鑑で羽化の写真を見て、どうしても本物が見たくなって、一晩中観察したことがあったんだ。ここにいる成虫とはくらべものにならないぐらい、綺麗だったよ。全身が透き通ってて」

「えっ、じゃあ、蝉の抜け殻、集めたことある?」

「ある」と言って、ふっと靭也が微笑みを浮かべた。
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